公器の上場戦略(参考書籍)
公器の上場戦略
あらた監査法人代表社員の佐々木氏の編著です。
内部統制報告制度(J-SOX)が導入されたり、コーポレートガバナンスに関する市場の要求が高まってきたりしている中でのIPOについて、本格的に研究・検討している書籍です。
編著者は、J-SOXの本格的な実務書「内部統制報告バイブル」の著者でもあるので、本書と「バイブル」が姉妹書という位置づけになっています(本書中でも「バイブル」が度々出てきます)。
本書でもJ-SOX関連の各種のフォーマット(テンプレート)が多数紹介されており、IPO準備会社で参考にできるものもあると思います。
とても充実した内容ですのでIPO実務を相応にマスターしている方には「良書」だと思いますが、全461ページというボリュームでもあり、内容面も金商法(J-SOX)や上場制度に関する実務レベルまでの細かい内容も出てきますので、読者層が限定されるかもしれません(企業経営者や、入門レベルの実務担当者には正直キツいと思います)。
サブタイトルとして「経営者のホンネと市場のタテマエをつなぐプレイヤーのビジョン」が掲げられていますが、何のことだか難しくてよくわかりませんでした。。。。
09年IPO 企業分析レポート(ジャパンベンチャーリサーチ)
09年IPO 企業分析レポートが公表されています。
http://www.jvr.jp/topics/docs/PR20100129.pdf
レポートには、09年のIPO 19社について、VCの投資金額ランキングなどが掲載されています。
IPO前にVCからの資金調達をしていた企業がどこかやその際の出資会社(VC、事業会社)はどこだったのかなどがまとめられていますので、この手の情報に興味ある方はレポート本文をお読み下さい。
なぜIPO準備は上手くすすまないのか?
(ここでは、業績面の原因は除いて考えます)
典型的なのは、
・経理体制が整っていない
(無限定適正の監査意見が出ない、決算が締まるのが遅い、監査人からの指摘事項がつぶれていない、J-SOX対応が出来ていない)
・社内諸規程が整備できていない、規程はあるが運用実態と乖離している
・中期経営計画、単年度予算が策定できていない
・予算の精度(クオリティ)が低い、予算統制資料の不備などによって、十分な利益管理ができていない
・労務管理関連の問題がある(未払賃金の存在など)
・反社会的勢力に関する対応ができていない
・関係会社の整理ができていない
・関連当事者との取引、特別利害関係者との取引が整理できていない
・上場申請書類(Iの部、IIの部)が完成していない
・その他審査提出書類(事業報告、株主総会・取締役会議事録、各種管理資料)が整備できていない
というような状況だと思います。
では、このような状況になってしまった原因はどこにあるのでしょうか?
・時間がない
・人手が足りない
のような時間的制約を理由にするケースが多いように思えます。
が、当方の経験上、本当にそうなのかというと「本質」は別のところにある場合が多いです。
私は、IPO準備が上手く進まないケースにおいて、「根っこ」にある問題点は、
「社内外の各種のコミュニケーションの不足(欠陥)」と、「主体的ではない受動的な上場準備作業」ではないかと思います。
●監査法人とのコミュニケーション不足
・監査人が指導 → 会社は理解できない → 監査人が会社が理解できていないことに気づかない → いざ決算になって不備が多発(監査法人からは「あの時にご指摘していましたよね」と言われてしまう)
とか、
・監査人が指導 → 会社は理解できない → メンツなどが邪魔をして「理解できないので詳しく教えてくれ」と言えない → 不備が多発
●主幹事証券とのコミュニケーション不足
・証券会社が指導 → 会社は理解できない → 証券会社が会社が理解できていないことに気づかない → いざ審査直前(もしくは審査に突入)になって不備が多発(証券会社からは「あの時にご指導していましたよね」と言われてしまう)
とか、
・証券会社が指導 → 会社は理解できない → メンツなどが邪魔をして「理解できないので詳しく教えてくれ」と言えない → 不備が多発
●社内におけるコミュニケーション不足
・責任者の仕切りが悪く、社内での役割分担が曖昧なため、未対応の課題が残ってしまう(漏れてしまう)
・分担はしたものの、責任者の進捗フォローが悪く、期日になってから問題が判明
・経営陣と現場とのコミュニケーションが悪く、順調に進んでいないにも関わらず、「順調です」との報告がなされ、ギリギリになって問題が発覚(順調ではないことが認識できていないケースや、順調ではないことを言い出せないケースなど状況は様々)
●主体的ではない受動的な上場準備作業
・監査法人から言われたことだけをその場しのぎ的にやる(意味・目的を咀嚼せずに行動に移す)
・主幹事証券から言われたことだけをその場しのぎ的にやる( 同 上 )
という対応をしていると、何のための作業なのかもわからなくなり、また「漏れ」も多くなります。
IPO準備が上手くいっていない会社さんは、上記のいずれか(複数?)が起こっているのではないかと思います。
逆にいうと、IPO準備を上手く進めるポイントは、
・社内外の各種のコミュニケーションを上手に(円滑に・良好に)行うこと
・主体的な(自主性のある)上場準備作業ということになります。
その際には、IPO準備の責任者の力量(能力・経験・社内での発言力など)がとても重要な要素となります。
次回以後も、もう少しこの手の話題を続けたいと思います。
みずほFGが、「ライツ・イシュー」を検討中?
先日、取引所の規則改正のニュース記事として「ライツ・イシュー」の解禁についてを話題にしましたが、早速みずほFGが実行を検討している旨の記事がでていました。
「みずほ」増資に踏み切るか 「ライツ・イシュー」案が浮上(JCASTニュース)
http://www.j-cast.com/2010/01/25058663.html
以下記事より引用です。
みずほは2010年春にもライツ・イシューによる増資に踏み切るか検討を進めている模様だ。ただ、みずほの株主は約63万人に上り、三井住友FGの2倍の規模。事務手続きが膨らみ、通常の公募増資に比べて資金調達に時間がかかる可能性が高い。 |
どこが、ライツイシュー第一号をやるのだろうとは思っていましたが、みずほFGのような金融機関(みずほFGに限らずですが)が検討するというのは何となく納得感があります(大型の資金調達であり、既存株主に対しても強く配慮する必要がある状況にありますので)。
まだ「記事」レベルですので確からしさはわかりませんが、ニュースとしてご紹介しました。
【参考過去記事】
東証、大証、ジャスダックが「業務規程等」を改正(09/12/27)
「未公開株サギ」に関する被害防止対応連絡協議会報告書(証券業協会)
「もうすぐ上場する」、「値上がり確実」などとして未登録業者が未公開株式を勧誘するトラブルが増加していることを受けて、09年9月に、「未公開株式の投資勧誘による被害防止対応連絡協議会」が設置されていました(日本証券業協会の自主規制会議の下部組織として)。
協議会の検討が終わったとのことで、報告書が公表されています。
未公開株式の投資勧誘による被害防止に向けた具体的な方策について」
http://www.jsda.or.jp/html/houkokusyo/pdf/10012001.pdf
以下、報告書より引用です(下線は私が付しました)。
未公開株に関する相談件数は、2007 年に一旦減少した後、再び増加傾向にあり2009 年度(4月から9 月)は前年に比べ大幅に増加(対前年同期間比1.6 倍2)する気配となっている。 |
上場を直前に控えた会社が募集を行うことは反社会的勢力等の入り込む可能性を拡大させるた |
株式上場(IPO)を業としている立場としての感想としては、「未だにこのような詐欺事件があるんだ」と思うのですが、巧妙な手口で高齢者を狙いうちにしているようですので、許し難いことと思います。
結局は、「上場直前の会社の株を買いませんか」と持ちかけることなどあり得ないということを社会一般に啓蒙するということしか対策がないということで具体的な方策がまとめられております。
本ブログ読者の方は大丈夫だと思いますが、ご注意下さい。
【参考過去記事】
未公開株に関するご注意(金融庁)(09/06/20)
またしても未公開株詐欺・・・・(09/06/17)
未公開株詐欺 「株安」と「ネット取引普及」が被害拡大を助長か(09/03/09)
未公開株事件緊急警報(山村証券)(09/03/06)
またまた未公開株事件(09/03/06)
未公開株商法が事件化(09/02/17)
TOKYO AIMに、「社債」上場?
プロ向け市場、社債上場を検討 東証、活性化へ利便性向上
という記事が出ていました。
http://markets.nikkei.co.jp/kokunai/hotnews.aspx?id=ASGC18015%2018012010 (Nikkei.net)
以下、記事より引用です。
> 東京証券取引所は、プロ向け市場「TOKYO AIM」に社債を上場できるようにするための認可を取得する検討に入った。国内だけでなくアジアで発行される海外企業の社債を扱うことも視野に入れ、3月にも事業化を最終判断する。
同市場は、昨年6月の市場開設以来、1社も上場会社が出ない状況でしたが、株式ではなく「社債」の上場を検討しているとのことです。
「社債」上場の検討は正直想定外でした(まだ新聞報道ですので事実かどうかはわかりませんが)。。。
【 参考過去記事 】
『TOKYO AIM』 ついに始動? (09/05/31)
J-Nomad は6社がエントリー(TOKYO AIM) (09/06/12)
(雑談)TOKYO AIM (09/06/13)
TOKYO AIM上場ガイドブック (トーマツ)(09/10/20)
カテゴリーを追加しました(IPO体験談紹介)
ブログカテゴリーに「IPO体験談紹介」を新設しましたので、体験談紹介をまとめて読みたい場合は便利かと思います(カテゴリーから「IPO体験談紹介」をクリックすればまとめて読めます)。
【参考過去記事】
(参考ウェブサイト) JASDAQ上場体験談(ジャスダックHP)(08/03/15)
デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 上場体験談(ジャスダックHP)
2009年10月23日にジャスダックNEOに上場した株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所(代表取締役社長 日高 有一氏)の上場体験談がジャスダックのHPに掲載されています。
(メールマガジン「JASDAQ IPO WAVE」としても配信されています)
JASDAQ上場を達成した会社の体験談 株式会社デ・ウエスタン・セラピテクス研究所 代表取締役社長 日高 有一 様 殿
http://www.jasdaq.co.jp/list/taiken/taiken4576.jsp
詳細は、原文を直接お読み頂ければと思いますが、「これから上場を目指す会社に伝えたいこと」の部分のみ引用してご紹介します(下線は私が付しました)。
上場を達成するためには「何が起こっても受け止める」という強い信念を持たなければなりません。この信念がどれだけ強いかが上場準備を進めていく際に起こる様々な困難を乗り越える原動力になると思います。 |
「強い信念」が必要というのはとても同感です。
(特に経営者が)曖昧な気持ちでは、全社が一丸となって取り組むことも出来ず、IPOまで辿り着くことは難しいと思います。
上場準備中の会社の方には、 他社分も含めて体験談を一読されることをオススメいたします。
(ジャスダック以外の市場が想定市場の会社さんでも)
ジャスダック証券取引所は、精力的に上場体験談を公開・更新されておりとても良い取組みだと思います。
(その他の取引所はこのような取組みはほぼ皆無でしょうか。ヘラクレスが頻度は少ないですがメールマガジンで体験談を配信している程度かと思います。)
ジャスダック証券取引所 「上場を達成した会社の体験談」
http://www.jasdaq.co.jp/list/list_40.jsp